燃えている。
空も、大地も、人も。
肉の焦げる臭い。天に昇る煙。
何も無くなってしまった場所で、スザクはただじっと自らの手を見つめていた。
「スザクさんはこれからどうなされるのですか?」
ほんの数分前、ナナリーに尋ねられた言葉が頭から離れない。
これから。
俺に未来などあるのだろうか。戦争に負けた国の首相の息子。皇室の流れを引く者。
―――そして、最悪の罪を犯した人間。
総司令部に行くと言った時の、ルルーシュの顔を思い出した。
あいつは、優しすぎる。
こんな、もう2度と会わないやつに。
「だいじょうぶ。」
俺は、笑えていたか?
なあ、ルルーシュ。
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スザクは嘘をついたことがなかった。
嘘をつくのは悪いことだという信念も少なからずあったが、それ以前に、嘘などつく必要が全くなかったのだ。
人は何かを守るために誰かに嘘をつく。それは自分の名誉であったり、あるいは他人の心であったり。
スザクには、そもそも嘘をつく相手がいなかった。彼にとって守るべきものは自分の心のみで、それには嘘など意味がなかった。
スザクの初めての嘘。
それは、「だいじょうぶ」という言葉。
はじめての友達を悲しませないためだけの嘘。
嘘だとわかりきった嘘。
まだ、手のひらに粘る感触が残っているような気がして、スザクは震えた。
恐る恐る開いてみても、そこには何もなかった。
―――何も、なかった。