今、ルルーシュは何と言った・・・?
スザクの目には、何かを叫ぶルルーシュの姿が映った。
スザクの耳には、何かを叫ぶルルーシュの声が響いた。
でも、何も理解できなかった。
・・・スザクは、理解しようとしなかった。
ルルーシュに拒絶されることを恐れ、同時に、ルルーシュに受け入れられることも恐れたスザクにとって、沈黙を破ったルルーシュの声は、どこか救いのようでもあった。
だがそれは、彼が考えたどの恐怖よりも、恐ろしいものだった。
**********
―――ブリタニアをぶっ壊す・・・?
どうして、そんなことを言うんだ・・・?
ブリタニアは、ルルーシュの国なのに。
おかしいだろ、ルルーシュ。それじゃ、間違ってしまう。
日本を壊した俺と、同じになってしまう。
父親を殺すことになってしまう・・・っ!
駄目だ。そんなのは駄目だ。
お前はそんなことしちゃ駄目だ。
見ただろ?ルルーシュ。
日本人は、死んだ。たくさん死んだ。
スザクの脳裏を、つい数時間前に見た地獄のような光景がよぎった。
焼け果てた地上を覆いつくしてもまだ足りず、折り重なりあう人々。
乾いた大地に飲み込まれていく、赤い血。
わずかに動くものも、次の瞬間には只の塊に変わってしまう。
―――俺が、殺した。
―――俺が、日本を壊した!
駄目だ。
ルルーシュは間違っちゃ駄目なんだよ。
みんな不幸になる。
ルルーシュが不幸になる。
お前まで間違う必要はないだろ?
お前が不幸になるなんて、嫌だよ。
・・・罪人は俺だけでいい。
裁かれるのも、罰を受けるのも、俺だけでいい。
**********
ふらふらとスザクは立ち上がった。
何かに取り憑かれたかのように、虚ろな瞳でルルーシュを見据えながら。
そして、きつく握りしめられたルルーシュの両手に気づき、そっとその指をほどいていった。
壊れやすいものを扱うように。左手をとり、ゆっくりと。
掌にはくっきりとした爪の痕。
もとから白かった手は、まるで血が通っていないかのようになっていた。
「駄目だ。そんなのは、駄目だ・・・。」
うわ言のようにスザクは呟く。
「間違いだ。間違っちゃ駄目だ。」
こすれば赤い爪痕が消えるとでも思っているのだろうか、優しく、けれど熱心に、白い掌を撫でながら。
何度も何度も。
壊れたオルゴールのように、「駄目だ」と「間違ってる」を繰り返して―――
**********
小さな三日月の跡が全て消え去る頃、それまでされるがままになっていたルルーシュが動いた。
「・・・やめてくれ。僕は、もういいんだよ。」
震えながら未だにルルーシュの手を擦り続けるスザクを振りほどく。
「僕なんて、どうでもいい!!守りたいものさえ守れるなら、どうなってもかまわない!」
どこか呆然として、離れていったルルーシュの手を見つめるスザクの姿に、ルルーシュは胸が痛んだ。
奪われた。
奪われてしまった。
僕の友達。大切な、友達。僕の《スザク》―――
「あいつらは、僕から全て奪う!!僕の幸せは次々に壊されていく!」
乾いた空気が喉の奥へと入り込む。
痛い。痛い。
喉も、頭も、足も、心も。
目に映るのは、スザク。
手を伸ばしては、何かを恐れるかのように下を向き、力無く手を落とすスザクの姿。
・・・あぁ、奪われてしまった・・・。
「もう、何も奪わせるものか!僕はナナリーだけは守ってみせる・・・!!」
「―――・・・っ!」
**********
―――――その言葉を聞いた瞬間、スザクの動きが止まった。
小さく「駄目だ、駄目だよ」と繰り返すばかりだった口が歪み、乾いた笑いが漏れる。
異変に気づいたルルーシュは、俯いたスザクの顔を覗き込み、息をのんだ。
―――スザクが、泣いている。
―――笑いながら、泣いている。
「・・・くっ・・・ははっ。―――っ・・・俺は、お前を守るって・・・ふっ・・・く」
―――お前はナナリーを守る。そして、俺がお前を守る。
―――俺はお前を絶対に守るからな。何があっても、何をしてでも。
―――そう、言ったのにな。・・・ルルーシュ・・・。
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